ALPs(超域創造プログラム)始動、林千晶さんをお招きしてデザインと社会について伺う

2021.2.11

2021年1月28日、ALPs 初めての活動として、
株式会社 ロフトワーク代表取締役 林千晶さんをお招きし、
特別講義を行いました。

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ALPsとは、「Applied - design Leading Programs」の頭文字をとったもので、
来年度から始まる領域、学生・院生・教員といった
立場も越えて参加できる実践的なプロジェクト型プログラム。

本格的な始動の前段階として、
すでにさまざまな事業で社会とのかかわりを模索し
新たな関係性を作り出している林さんをお招きし、お話を伺いました。

講義は、名古屋栄ヒサヤオオドオリパークにある
FabCafe Nagoyaと西キャンパスB棟大講義室をリモートでつないで行いました。

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FabCafe Nagoyaは、(株)ロフトワークと
大垣共立銀行グループの(株)OKB総研が運営するカフェで、
レーザーカッターや3Dプリンターなどデジタルファブリケーション機器を設置した
体験型のコミュニティ・カフェ。

ALPsの始動にふさわしい場所といえます。

この日、ネットワークシステムを加藤良将講師が準備、
大講義室には臼井拓朗講師、
FabCafe Nagoyaにも有志の学生とデザイン領域の荻原周教授、駒井貞治准教授、
竹内創准教授、水内智英准教授が集まり、講義が始まりました。

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今後のALPsの活動にとって非常に刺激的で参考になる内容となりました。

今回の講義では、社会とデザインの接点ということで、
林さんの活動の中でも飛騨の木材の可能性を広げ新しい価値を生み出している
「株式会社 飛騨の森でクマは踊る」(通称ヒダクマ)の活動を中心に紹介していただきました。

ヒダクマは2015年創業、社員12人の小さな会社ですが、
クリエイトの力で世界とつながる異色の企業。

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大きく分けて2つの事業を軸としており、
一つは地域交流事業で、古民家を活用しFabCafe hidaを運営、
木材を使ったワークショップや林業や地域社会について考えるイベントなどを展開しています。

もう一つは、飛騨の森の木を活用する事業。
通常、林業では使われない広葉樹を活用、利用の拡大を促す事業です。

飛騨市は、面積の9割が森林で、
その森林の7割が広葉樹の森なのだそうです。

日本の林業は、採算性の高い針葉樹のみを木材の対象としており、
飛騨市の森は、森であっても林野庁から見た場合では
木材資源にカウントされないのだといいます。

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「飛騨の広葉樹の出口を作りたい」という課題に、
通常では材木にならない曲がった木や小径木を、
木肌の色味の違いや組み合わせて使うなど
これまでの林業の常識とは異なった価値に着目し、
数々のプロダクトを成功させていきます。

古くから伝わる木工技術とコンピューターやICT技術を組み合わせることで、
プロダクトを成立させているところがとても興味深いです。
これまでの林業の常識にとらわれない新たな視点がプロダクトのポイントといえます。

後半は、学生からの質問を受け、ディスカッションを行いました。
質問には、SDGsは今後ますます重要になっていくと思われるがどう見ているか?
日本の伝統的な木工技術とデジタルの関係について、木の色目に着目したきっかけは?
などが挙げられました。

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SDGsについては、SDGsはこれまで効率のみを考えてきた
もっと上の世代を啓蒙するための言葉であり、
若い世代は未来に残したい自然や文化など、
現実としてSDGsの価値観が備わっているはず。

そうした自分の感覚を大切にして欲しいといいます。

伝統技術については、ヒダクマでは実際に大工さんに作業をお願いすることもあり、
伝統技術を守るための会社でもあるといいます。

伝統技術とコンピューターは競合するものではなく、
技術を生かして次の世代に伝えるためのものであり、
コンピューターのなかった時代の技術をどうやってコンピューターで使うかを考える時代。

そうしたことを考えるのも芸大の使命なのでは、と問いかけます。
木の色味については、創業した5年前はまったく知らなかったといい、

フィンランドやドイツといった世界の木材輸出国では
10種類程度の樹種しかないが日本には100種類以上の多様な広葉樹があり、
広葉樹の利用を広げないと輸出もできないといいます。

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ヒダクマは、林業の常識から外れたことばかりやっているが、
それでも収益が上がることを証明するためにやっている部分もあり、
大量生産では解けない、自然の価値を上手く使い、
その価値が長く残ることを目指していると説明しました。

さらに、自分たちのプロダクトの価値をどうやって見定めているか?
デメリットをメリットに変換するための視点について、
という核心を突くような質問が挙がります。

この問に対し林さんは、価値として自分がいいと思うか、
自分の友達や家族が使いたいと思うか、
自分の知っている範囲でしっかりと考えることをやっているといいます。

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マーケティングでは、20代女性の80%といった具合に
現実には存在しないペルソナを想定してターゲットを設定しますが、
それよりも特定の誰かの言葉や考えていることこそが大事で、
想定ではなくその事実がものごとを決めるときの基礎になっていくといいます。

マーケティングでは何十万人という消費者を塊として捉え、
デザインはそれに応えるための中間的なプロセスとして存在しますが、
そうではなくひとりの人間を見てその人に届けるためのデザインがあり、
それは多くの人に伝わるものであるように、
プロダクトの作り方が今後変わっていくのではないかといいます。

コンセプトを作るためにデザインリサーチがはじめにあり、
デザインが最上流になっていくのではないかと説明しました。

無理だとあきらめるアイデアと挑戦すべきアイデアの違いをどう判断しているかについては、
実現の可能性を示す意見が出てきたらそれを追求するといい、
判断で迷うのは、世の中がいいという案と
危険だけど自分ではやりたいと思う案のどちらかで迷っているはずであり、
人生は一度きりなのでリスクがあってもやりたいことを選んで欲しい、
と学生にエールを送りました。

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最後は、世の中で一番尖っている人が集まっているのが芸大。
一つでも質問し、一つでも行動して、世の中を変えていって欲しい、
皆さんに期待しますとまとめ、特別講義は終了となりました。

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